私がここ数ヶ月ハマって抜け出せなくなっている(やっとテレビを見る気が湧いてきたというのが数ヶ月前だったので)韓国のボーカルグループBTS(防弾少年団)が,昨日夜ニューヨークの国連本部でスピーチをした。今日のニュースはあちこちにその話題が出ていた。
国連のサイトには,7人全員が交代でしたスピーチと昼間もしくは前日あたりに撮影したと思しき彼らのヒット曲”Permission to Dance”のパフォーマンスのビデオ(会議場で上映されたようだ)が掲載されている。今回の議長のアブドゥルシャヒード(シャヒームだったか?)さんなんて喜んでいたようだ。アラブ人は踊るのが大好きだ。昼間に撮影されたビデオは,国連の議場からドアを開いて外に出て建物の周りにいた人達(あらかじめ配置?)が自転車を降りたり駆け寄ったりして一緒に踊り出す趣向。BTSはつい最近も世界各地に向けて”Permission to Dance Challenge”を行なっており,欧米やアジア,アフリカあたりから数えきれないほどのダンスチャレンジの様子がSNSで寄せられていた。
確かに世界の人の中には,かなり誹謗中傷する人もいる(特に日本だろうか)。けれど彼らは国連から直々に招待された人達なので(文大統領はオンライン出席でも良いと言われたらしいが),外交官パスポートが与えられたのは入国後の隔離期間短縮,隔離場所などの特別措置のためだろう。
私はたまたま難民の夫と結婚した関係で中東の外交官に会う機会が何度もあったが,割と出鱈目に立場を使っている人もいたので,それを考えたらBTSの方がずっと素晴らしい。
暗い状況に負けそうになる時期だからこそ,笑って希望を持とう,というのはあっても良い意見だと思う。
コロナ予防ワクチン接種についても訴えていた。韓国の摂取率は日本より低いそうだ。事情は色々あるだろうが,政治的なものもあるだろうし,私は韓国で力のある保守的なキリスト教団体などが反ワクチン活動をしているのではないかと少々疑っている。
保守的キリスト教徒は偏見や間違った教義(聖書に書かれていないことを拡大解釈)で動くことがよくある。たとえば「キリストの再臨するための場所としてイスラエルが必要だ」とかである。これは主にアメリカ合衆国の福音派キリスト教徒,韓国と日本の福音派キリスト教徒に多い考え方である。韓国では,イスラエルにも資金援助などをしているバリバリのシオニストが多い。シオニストが行きすぎて,キリスト教徒からユダヤ教徒に改宗してイスラエル人になってパレスチナ人を抑圧弾圧しようとする人が韓国やアメリカ合衆国にあまりにも多くいるので,むしろ現地の正統派ユダヤ教徒の人が戸惑うこともある。
こういうことは,何かしらの宗教の歴史の浅い国,たとえば,戦争後の韓国や日本におけるキリスト教,国自体の歴史が浅いアメリカ合衆国などによく起こる。日本や韓国などは戦時中にキリスト教徒であることで迫害されるからと適当に教義を変えてしまっているから,余計に厄介である。
宗教理念への正しい理解が不足しているのに「ただ一所懸命」「とにかく実行」になってしまうから恐ろしい面もある。
アメリカ合衆国やカナダでは,中東でパレスチナ人が一方的にイスラエルにミサイルや砲弾の攻撃を受けて逃げ場もなく傷つけられるだけの時,ユダヤ教徒がイスラエルに反対してデモなどしてくれる。なのに保守的(福音派)キリスト教徒がイスラエルを支持して平和解決を望むユダヤ教徒を迫害する。おかしな話である。
私は夫が難民で,夫の親戚に国連の仕事をしていた人もいた。また実際に夫が実家に帰っている間にイスラエルが攻撃してきた際,戦争状態になり夫と連絡が取れなくなって,あちこち公的機関に相談したことがある。その時にも色々調べた。
国連は今世界で溢れてきている難民を保護すると称してUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)を立てているけれど,UNHCRが設立されるより前に発生した難民であるパレスチナ難民には,全く何もしてくれない。「うちの業務ではありません。」と門前払いだ。パレスチナ難民にだけはUNRWA(国連難民救済機関)というものがあるが「難民はUNHCRが対処しているから」とか色々な理由をつけてUNRWAの予算は年々削られているのが現状で,パレスチナ難民はまともな医療も受けられず食物もない。そんな状態でパレスチナ人は70年以上難民のままでいる。
ガザやヨルダン川西岸,レバノン,シリア,イラクなどがイスラエルやアメリカに攻撃され荒廃し物資が何もなくなっても,UNHCRは何もしてくれない。UNRWAにはお金がない。せめて一つの場所に囲い込んで人々の頭の上にミサイルを降り注ぐことはやめてほしい,と中東の代表が国連で議題を提案しても,いつもアメリカ合衆国の保守派が拒否権を発動するので拒否され,人々は見殺しにされる。
もう20年近く,そんな状況を見てきた私は,めちゃくちゃ国連不信な面がある。国連に夢は見られない。
でもBTSが伝えてくる「暗い世界状況でこれ以上暗いことを考えていたら潰れてしまうから,きっと良くなるから未来にウェルカムしよう。」というメッセージはそれは若い彼らの誠意だとも思う。それに彼らはまだ20代なのだ。夢を持ってもいいだろう。
少なくとも,この数ヶ月,私はBTSのおかげで精神的に随分マシになってきたような気がする。起きて動く時間が増えたような気がするし歌を口ずさむこともある。音楽なんて,もう長いこと聞かなかったのに。
私の携帯には種々雑多な音楽が入っている。日本や韓国,UK,アイルランド,アメリカ、カナダ,フランス,ブラジル,オランダ,ドイツ、フィンランド,スウェーデン,モンゴル,イラク等々のロックやクラシックや民族音楽やジャズやアニメソングや・・・ありとあらゆる種類が入っているのに。母や姉や夫の介護の頃や,母が死んでからは,音楽を聞くこともあまりなかった。車の中で歌うこともなかった。数年前までは車を運転しながら音楽に心を揺さぶられて涙を流すこともあったのに,ここ数年はいつでもどんな時でも涙の一滴も出ない。
BTSを聴いたのはたまたまだった。壊れていたテレビのチューナーを交換して,最初に見たアメリカビルボードチャートの特集でBTSの曲が2曲か3曲チャート上位に入っていたから。それを聞いてからBTSの情報を追いかけ始めた。初めは顔の区別もつかなかったが,すぐに区別がつくようになった。興味を持つということは素晴らしいエネルギーを生むものだ。
BTSの歌で少し動けるようになった,ような気がする(気がするだけだが)。ナナの散歩もすごく短かった距離から少し伸ばすことができたような気がする。まだ食事はまともにできないが,きっといつか食事もできるんじゃないかと思う。
私の年齢だと「未来にウェルカム」は難しいけれど,若い人たちに何かしらの希望が持てるような世の中にするには,やはり大人が頑張らないといけないのではないかと思う。特に国連とか国会とかそういう重要なポジションにいる人間は自分の利権ばかり考えず,少しでも国民や世界のことを考えてほしい。それが難しいわけではあるが。
RM(キム・ナムジュン)が環境汚染や自然破壊について触れていたことも,自然の中にいることを好む私には大切なことだった。
RMはとてもIQが高くギフテッドだそうなのだが,音楽を志して大学へは行かなかったそうだ。でも多分彼ぐらいのギフテッドは普通の大学に行っても多分辛いと思う。軽度のギフテッドの私でさえ辛かったからそう思う。
彼らが今いる場所は彼らと彼らを支えた人達の功績だと思う。そして国連は割と有名人を呼んできてスピーチさせたり、国連のナントカ大使とかにして一般大衆の機嫌を取ろうとする。そんなかで彼らは彼らなりにメッセージを発信したのだ。偉そうなことをいくら言っても私生活がボロボロで周りを傷つけるような女優さんとかも国連のナントカ大使やスピーチをしてきたことを考えると,BTSの方が素晴らしい,と私は思う。
割と多くのアメリカ人と付き合ってわかったことだが,アメリカ人には世界地図(場合によってはアメリカの地図さえ)が入っていないことが多いから,世界を語るのは難しいし適当にそれっぽく誤魔化すしかない部分もあるだろう。アメリカ人に何回「日本は中国のどの辺?」と聞かれたことか。多分,私が会った中で日本や中国に興味を持っていて場所がはっきりわかっていたアメリカ人は,私の友人一人しかいない。欧米で暮らしていた知人達もおおよそ似たような話をする。
正直に言えば,決して今回のBTSの国連スピーチを手放しで賞賛したり喜んだりしているわけではない。
彼らには彼らのままでいてほしい。それが私を元気づけてくれる。国連がどれだけしょうがない組織か知っているので,あまり国連に利用されないと良いなと思うのだ。
来年あたりはBTSメンバーの中にも兵役義務に就く人がいるだろう。全員が揃っている今,3回目の国連への招待と2回目のスピーチ,彼らにとっても大切なことだったろう。
私は国連に夢は見ていない。だがBTSを招待したのは国連もかなり時勢を見たな,と感心したのだ。