今日のニュースを見ていたら,イギリスのコメディアン・俳優のジェームズ・コーデンがBTSを中傷しているかのようなタイトルの記事があった。
https://www.cosmopolitan.com/jp/k-culture/korean-entertainment/a37748158/army-bts/#
ソースはコスモポリタン紙。だが,読んで言ったら,これはあまりにもひどい言いがかりではないだろうか?と感じてしまった。
コスモポリタンも煽るような見出しであるから,言いがかりを助長していると思うし,こんな誹謗中傷を平気でする人間がファンを名乗るのは,BTSにとってもダメージにしかならないと思うのだ。
ジェームズ・コーデンはイギリスの人で,10年ぐらい前には映画の主演もしたし,私の好きなイギリスの御長寿ドラマ(60年ぐらいやっている)「ドクター・フー」にも数回重要な役で出演しているし,何より今では有名な司会者として番組を持っている。
特に「CARPOOL KARAOKE (カープールカラオケ)」は大人気だ。ポール・マッカートニーと一緒に彼の故郷を訪ねつつ一緒に車の中で歌いまくるとか,ジョナス・ブラザーズとは彼らのキャリアについてシリアスな話をしつつ歌いまくるとか,ミシェル・オバマと二人漫才みたいになりながら歌うとか,多種多彩なゲスト(多種多才というか)が来て,車の中であるのを良いことに大声で歌いまくる,なおかつインタビューする,という楽しい番組だ。
BTSも以前「カープールカラオケ」に出演している。ジェームズが「どうして英語がそんなに話せるのか」と質問すると「友達やテレビから」とRMが答え,ジンが「僕もテレビや友達から英語聞くけど話せないよ〜」と笑っている。ジェームズも一緒にみんなで ”MIC Drop"大合唱もある。
韓国のM NETで毎年開催されるMAMA(Mnet Asia Music Award)で,コロナ問題で有観客ライヴができず,映像とオンラインで進行された2020年度授賞式では,ジェームズ・コーデンがオンラインでプレゼンターを務め,BTSが受賞して嬉しい,と言っていた。
今回コスモポリタン紙が「BTSファンから批判」と煽ってきているのは,ジェームズ・コーデンが先日行われたBTSの国連でのスピーチに関してSNSに書き込んだことで,BTSのファンが「BTSのファンは15歳の女の子だけじゃない」「ジェームズ・コーデンがBTSを貶している」と怒っているというものだ。なんだか「?」である。
ジェームズ・コーデンが言っているのは「今まで国連や国連の活動に興味関心を持たなかった人々が,BTSを通して関心を持ち始めるだろう。」ということだ。批判や貶すというのではなく,彼はむしろBTSを称賛しているのだ。
確かに,ファンの中には多少思考に問題がある人もいるだろうが,それが全てのファンではない。今回,一部で過激でリテラシーのないファンが暴走しているかもしれない。だが,一番の問題は,このコスモポリタン紙のように,あたかも全てのファンがジェームズ・コーデンを非難しているかのように扇情的な記事を出してくるメディアの方である。こんなことでジェームズ・コーデンの番組の視聴率がどうかなるとしたら,大変おかしなことである。その視聴率というのはどの世代のどの人々によるものなのか。
リテラシーは大変重要なものである。日本では,1980年代から学習指導要領というものが大幅に改訂されててしまい,学習内容がバッサリと切り取られ捨てられてしまった。そのため教科書内容も系統性を欠くものがあり,現場の教員の中には子ども達の将来を憂える人もいた。今から10年ほど前に,また少し学習指導要領が変わり,突然学習内容が増えたのだが,当時の児童生徒と教員はとても大変な思いをしただろう。
現在でも,小学校での英語導入やプログラミング導入や増え過ぎた行事などのために,国語の学習内容は30〜40年前の半分ほどになっているので(土曜日が休みになったこともある,スピーチの学習など意見を出す学習が増えたが読み取り学習は減った),リテラシー(読解力)を育てることが難しくなっている。
私の夫の育ったレバノンでも,20年ほど前から小学校で英語を使った授業や英語学習が導入され,ドロップアウトしてしまう子どもが急激に増えた。中東では社会的構造のためでもあるが,小学生でさえ2年連続で全科目及第点を取れない児童は退学になる。なんとか小学校を出ても中学校でかなりの子どもが落第し退学になる。
私はかつて英語を教えていたことがあるのだが,母語による文章理解や抽象概念の理解ができないと,外国語の習得は難しい。日本人の中には「英語は暗記科目」と信じ込んでいる人がいるが,説明されたことが何を意味しているのか理解できなければ,何も理解できないのと同じなのである。だから国語力が必要だ。それは英語に限った話ではない。数学でも理科でも言葉が分からなければ「なんだこれは?」になってしまうのだ。ついでに言えば,英語学習は数学や社会科に通じるところがある。だがそれは別の話。
国語は話せれば良いというものではない。漢字の読み方ができない人が多過ぎて,ついには新しい読み方が定着し,辞書では正しい読み方に新しい読み方が並記されるケースもある。そうなると共通概念を持つことが難しくなる。私はここ30年ほどで変わり果てた岩波書店の辞書,「広辞苑」を見るのがとても悲しい。今時は,アナウンサーでさえ漢字が読めないのだ。なんとも恐ろしい世の中だ。
世界中が「英語学習」や「コンピュータ学習」に偏り,大切なことを忘れてしまって,気づけばリテラシーで障害が現れている。
話が逸れてしまったが,ジェームズ・コーデンは面白い司会者である。また俳優・コメディアン・声優である。イギリス人だから,時々イギリスっぽい皮肉を言ったりイギリス的なブラックジョークを言ったりするが,今回は何もおかしなことは言っていないと思うのだ。
ファンというのは普通の人間だから仕方がないのといえば仕方ない面もあるが,BTSのファンには冷静になってもらいたいものだ(私もBTSのファンではある)。